『棟梁に頼むときの心得と注意』
2021/02/19
『棟梁に頼むときの心得と注意』
さて、家族の中で、一応の希望が出尽くして、相互の調整がついて、項目別に一目瞭然のメモができ、さらに建築資金の手当もできたとする。
ここで問題になるのは、古い真面目な業者で、古くからつき合いがあれば別だが、どこの棟梁、大工に頼むかということだ。
しっかりした上長の紹介や、かたい友人の世話による場合も出てくるであろうが「あなた任せ、他人任せ」ではいけない。
しっかりした紹介であっても、初対面の業者の場合は、一抹の不安はつきもの。
これはお施主さんだけでなく、もっと切実に、われわれにもあるが……。
そこで、業者を紹介された場合は、その業者の実績を知る意味でも、最近施工した家を数軒見せてもらうのがよい。
そして、住んでいる人と、業者の言葉のやりとりを聞けば、下手な信用調査に優る場合が が結構多いものだ。
通りいっぺんの町の面識で頼んだところ、町のつき合いと実際の稼業の面のやり方が違ったり、「アパート住まいの若い駆け出しの職人に頼めば、モグリで安く上がるだろう」などと、助平根性を出して、失敗する例は少なくないので注意すること。
また、初対面の印象だけに頼ることも慎まなければなるまい。
印象がよくなかったからと、それだけのことで、腕前をうんぬんできるはずはない。
「大工が決まったら、次はいよいよ設計の打ち合わせだ。
最近は、住居づくりの参考書や雑誌が氾濫し、あそこはこんな材料、あそこはこんな意匠といった、末梢的な事項が先行しがちだが、順序としてはまず、建築法規に照らして、無理のない面積と、予定希望価格について包むところなく話し合うことだ。
設計期間を含むと、早くて一般に完工引き渡しまで、三ヵ月から半年は必要だ。最初をおろそかにすると、長いつき合いができにくくなる。
話し合いによっては、質的、機能的な面の向上のための不足額も、多少は時間的に立て替えてもらうことも可能になろう。
折り合えないものは無理として、自分の手掛けた家だ。
あとあとまで、心地よく住んでもらうために、大工はできるだけのことをしようと努力をする。
労を惜しまない。具体的な打ち合わせによって、平面計画ができ、図面ができて手元に届いたら、何をおいてもよく見ることだ。
わからないことは、直接大工に納得がいくまで聞く。
知識の乏しさを隠さんがため、知ったかぶりをし、わからないまんまやり過ごし、建築中に、「どうも図面ではわからなかったので、ナントカ…」
などというのは、双方の大きなマイナスになる。
先日の話だ。あるお施主さんから、「友人のところで、 設計屋さんに依頼して図面ができたところ、家族の人からさらに注文が出たところ、いろいろお説が出ると、一声何十万円だと脅されたらしいのですが、そんなことってあるんですか?」
と聞かれたことがあった。
もちろん、ことと次第によってはそんなことも、まったくないとはいえない。
設計の段階では、希望は、出し遅れぬようにメモして、詳細図ができる以前に組み入れてもらうことだ。
ただ、ここで注意しなくてはならないのは、使用材料の端々まであまりうるさく注文を出すと、建物全体の調和や家のムードの統一がとれなくなることもあるし、材料によって、一つひとつの値段も違ってくるということだ。
大工のいう言葉も十分尊重して、ひとりよがりにならないようにすることが、何よりも大事だ。
要するに、計画設計の期間を十分にとって、家族ぐるみの生活のあり方を知ってもらい、フトコロ具合もさらけ出して、下駄をあずけてよい状態で、仕事を依頼することが必要ということだ。
いくら善意と善意のより合いでも、工事が終わったあと、すっきりしないものを残すことがある。
最後に、工事期間をあらかじめ話し合いの時点で打ち合わせ、大体の工程表をつくってもらうと、工期の極端なズレを防げる。
そして、必ず、概算見積でよいから、工事金の見積書をもらっておくように。
さらに、工事請負契約書は、万が一、ゴタゴタが起こった場合に必要になるから、とり交わしておくと間違いがない。
この場合、別途工事に何と何があるかをはっきりと聞いて、家具、什器類、その他の費用や工事の諸掛かりを、相当金額見込む必要がある。
工事請負契約書はふつう、
- 工事発注者
- 受注者住所氏名
- 工事場所
- 建築構造規模
を明示するほか、添付書類による工事内容に基く工事費と支払い方法、工期を記載することになっている。
一般には印刷物でできたものを使うのが便利だ。
自筆で書いたものでも、法定の収入印紙を張りつけ、正規の印を捺印し、各々自署したものをとり交わしておくのが決めになっている。