機能性で広がる塗料の用途 フジツボやアオノリから船を守る汚損生物の付着を防ぐ船底防汚塗料
2021/09/22
フジツボやアオノリから船を守る汚損生物の付着を防ぐ船底防汚塗料
機能性で広がる塗料の用途
日露戦争の日本海海戦で東郷平八郎率いる日本海軍がロシアのバルチック艦隊を破ったことは良く知られていますが、長い航海でロシアの軍艦に汚損生物が付着し船速が落ちたこともバルチック艦隊の敗因の一つとされています。
海水に浸漬している物体には短時間で海洋バクテリアや珪藻などが付着しスライム層とよばれる薄い膜状付着層ができ、そこに大型生物が付着します。
船では主としてアオノリなどの海藻類やフジツボ類が問題になり、水産養殖用の漁網では主としてムラサキイガイ、フジツボ、ヒドロ虫が問題になります。
こうした大型付着生物、人間が汚損生物と呼んでいる生物が付着すると、船では船速が低下しエネルギー消費を増大し、養殖用漁網では付着生物の重みや海流の抵抗で網がつぶされてしまうことがあります。
船底塗料では汚損生物の付着を防ぐために、船の進行に伴って表面から徐々に樹脂が加水分解(水によって化学的に分解)する自己研磨型塗料として有機錫ポリマー塗料が開発されました。
この塗料は高い防汚性を持っていましたが、錫の巻き貝への生殖機能異常やイルカ、鯨への蓄積性が認められたことから、日本では世界に先駆け1997年から使用を全廃しました。
その後、これに代わる塗料として銅アクリルポリマー、珪素ポリマー、亜鉛ポリマーなどが開発され、防汚薬剤を混合して、実用化されています。
これらの塗料は船の進行に伴って表面から自己研磨することで汚損物質の付着を防ぎ、2年程度の船の運行を可能にしています。
また、近年、常温硬化型のシリコーン樹脂/液状オイルを組合せた生物そのものが付着しにくい塗料も船底塗料用に開発されています。
一方、漁網防汚剤は、樹脂溶液に付着生物が死んだり忌避する薬剤を溶解・分散したもので、この溶液に網を浸漬して塗装し、乾燥して用いるものです。
ポイント
- 船底防汚塗料は船の運航上きわめて重要
- 表面からの自己研磨機構で防汚性を発揮
- 有機錫に変わる新しい樹脂が実用化