現場管理 #1作業管理
2021/12/13
#1作業管理
現場管理
建築工事の場合、半製品を現場に持ち込んで組立、取り付け、仕上げを行うので、当初の設計品質(機能)を発揮するためには、現場の施工技術の良し悪しが大きな要因を占める。
その中でも、例えば、設備工事ならば、据付、配線によって、その機能が発揮されるので、施工に関わる寄与率は小さいが、現場塗装の場合は、単なる液体(塗料)を持ち込んで仕上げる作業であるから、施工の寄与率は、70~80%を占めるものと推定される。
従って、長期間にわたって日光や風雨に耐えて塗膜性能を維持するためには、単に、耐候性の良い塗料を使うだけでなく、適切な現場管理をすることによって、適切に正しく塗装しなければその性能を発揮することは出来ない。
作業の準備
戸建住宅の塗り替えは、お客様がその場に生活されているので、できるだけ、短工期の作業が要求される。
いかなるリフォーム工事にも共通することだが、効率よく作業を進めるためには、しっかりした事前準備をしなくてはならない。
塗装仕様の確認
- 戸建住宅には、小さい塗装部分でありながら・軒天・破風・バルコニーの手摺や笠木・物干し・物置・あるいは老化の激しい雨樋もある。
材木や石材、プラスチック類等が使われていて、塗装するよりも交換すべき場合もあるので、ひとつひとつきめ細かく塗装範囲を確認することが望まれる。 - 定められた、あるいは、お客様と約束した塗装仕様を守り、間違いなく塗ることが大切であり、塗装仕様、塗料の必要量をリストアップし、必要な塗料だけ持ち込み、使い切るように努める。
塗料の準備
- 仕上げ塗料・シーラー・硬化剤・シンナー等の銘柄をしっかり確認して調合する。 貯蔵中に顔料等が沈殿している可能性があるので、攪拌して均一化する。
特に、現場で色合わせを行う場合は、試し塗りすることによりトラブルを未然に防ぐように努める。 - 粘度調整
塗料缶に表示された溶剤を使って希釈する。ただし、希釈率は5%程度に留めること。
粘度が高いと極度に作業性が低下するが、塗りやすくするためにシンナーを規定よりも多く入れると、希釈過剰になり、塗料は流れやすく、「タレ」になり、つやも出にくい状態になり、仕上がりムラの原因となる。 - 2液性塗料の混合
混合比を間違えた場合や撹拌不足の場合に反応不足を起こすことがあるので、指定された混合比を守り、よく攪拌することが大切である。
規定の熟成時間や可使時間を守らないと仕上り不良を起こすことになるので、作業の進捗具合や天候の変化を見ながら調合する。
通常では、ありえないと思われるが、複数の作業者が作業をしている場合、2液性の塗料にもかかわらず硬化剤を入れないで塗装をしてしまうこともあり得るので油断は出来ない。
なお、硬化剤を入れないで塗装をすると塗膜が架橋していないのでラッカーシンナーで拭けば容易に剥がすことが出来る。
養生状態の事前確認
- 丁寧な養生をしていない場合、塗装をしない箇所に塗装を付着させたり、仕上り不良を発生させるので、養生状態は事前に確認するとよい。
開口部や玄関廻りの養生だけでなく現場付近のマイカー、自転車や植栽類についても気配り、目配りすること。
塗装作業管理
外壁の塗装は、美しさを確保することは勿論のことであるが、紫外線や雨風からの「保護」という目的を達成しなくてはならない。
そのためには、液状の塗料を指定された仕様で塗布し、適切な条件のもとで硬化させなくてはならないので、特に下記の点に留意する。
塗布量の管理
設計された塗膜の性能を発揮させるためには、第一に所定の塗膜の厚さを確保しなければならない。
外壁塗装の場合は、多様な部位、部材で構成されているので、それ程細かい管理精度は不要であると考えるが、経験的に現場では、塗布量が少なめであることが多い。
個別に、正確な塗膜の厚さを図らないまでも、メーカーの塗装仕様書に指示された塗布量、塗り回数を厳守することが重要であり、少なくとも、塗装物件ごとに塗料の使用量を管理するべきである。
標準的な使用量は、メーカー仕様書に記載された理論塗布量をもとに、算定できる。
理論塗布量(g/㎡)×塗装面積(㎡)÷塗料効率⇒使用量
なお、実際の塗膜厚を知るためには、膜厚計を使って測定しなくてはならない。
現在、塗膜の測定が可能で一般に市販されている膜厚計には、表の種類があるので、測定対象の素地に適応できる膜厚計を選択する。
測定方式 | 素地 | 被膜 |
---|---|---|
電磁誘導式 | 磁性体(鉄・フェライト系SUS) | 非磁性被膜 |
過電流式 | 非磁性体(アルミ・オーステナイト系SUS等) | 絶縁性被膜 |
電磁誘導・過電流両用 | 磁性体・非磁性体両用 | 非磁性被膜・絶縁性被膜 |
超音波式 | 非金属(プラスチック・モルタル等) | 非磁性被膜 |
ウエットゲージ式 | 金属・プラスチック | 未乾燥塗膜 |
ただし、外壁塗装の場合、素地が荒れていることが多いので、2~3点を測定して、平均値を出すことにより膜厚を知ることになるが、個々に測定して統計的な評価するよりも、全体の塗料の使用量を把握管理することが現実的である。
乾燥時間の管理
塗装間隔が短く、下地が乾燥不良の場合・ちぢみ・艶ムラ・ふくれ・剥離等の仕上がり不良を発生させる。
比較的乾燥時間の短い上塗り塗料を使っている場合、塗装直後は乾いてきれいに仕上がっていても、とじこめられた未乾燥の下塗り塗料が再塗装の時に気泡になってふくれることもある。
例えば、錆止め塗料の場合、乾燥時間が16時間を必要とする塗料もあり、また、気温が低く乾燥が遅い環境下での塗装作業もあるので、乾燥状況を充分に確認しなければならない。
このような場合は、指で塗膜面を軽く抑えて、塗料が付着せず、表面に被膜が形成されていることを確かめる。
塗料を重ね塗りする場合、異なった系統の塗料を塗り重ねすると、上塗りの溶剤が下塗り部に湿潤して軟化させる場合や層間付着の悪い組み合わせがあるので指定の仕様を守らなければならない。
天候の変化
下記の気象条件の場合は、塗装作業をしないことが原則である。
乾燥時間のことも考えて作業開始時、作業中だけでなく作業終了後の天候にも配慮して段取りをする。
- 気温5℃以下
気温が低いと乾燥(硬化)が遅いので、乾燥不良をきたす可能性がある。
また、低温下では、塗料の粘度が増加して作業性が悪くなるが、作業性が悪いからという理由で溶剤を増量すると膜厚低下や仕上げ不良を起こすことになる。
当然のことながら、低温下で塗料が凍結した場合、塗膜の性能が著しく低下するので、極度の低温化では塗料の保管、取り扱いには厳重な注意が必要である。
一方、炎天下の場合に鋼材の表面温度が 65℃になると泡を生じることになる。 - 相対湿度85%以上
溶媒が適正な速さで蒸発しないので、乾燥不良を起こすことになる。
その結果としてつや引け、白化現象(ブラッシング)、あるいは、塗膜の付着力低下を招くことになる。
なお、ブラッシングとは、溶剤が蒸発する時に気化熱を奪うために塗膜の表面の温度が低下し、表面に水分が凝結する現象である。 - 強風
風が強い場合、当然のことながら乾燥が早まるので、乾燥の速い塗料は著しく作業性が悪くなる。
また、塗料が飛散し、風に運ばれた砂やゴミ、塩分等が塗膜に付着する。 - 天候不良
塗膜が未乾燥のときに雨や雪が降りかかると正常に硬化しない。
塗装作業中だけでなく終了後の天候にも注意する。
工事の進捗管理
塗装工事は、天候の影響を受けるが、お客様と約束した納期を守るように最大限の努力をする。
工事に着手する前からお客様ときめ細かく連絡をとって、工期遵守に努め、お客様に心配、迷惑をかけないようにしなければならない。
整理整頓・規律
適切で正しい塗装作業を行うためには、適切な現場管理を必要とすることは言うまでもない。
しかし、発注者には、塗り終わってしまうと塗装直後の仕上感を見ることは出来るが、適切で正しい塗装作業が行われたかどうかは判断できないので、発注者は作業者を信頼するより他にすべがないわけであり、信頼するかどうかは、現場で見聞きする工事関係者の行動に基づいて判断されることが多い。
塗装作業自体は適切に行っているにもかかわらず、だらしない感じを与えたために色々なトラブルが発生することが多いので、現場の規律を守ることは非常に重要である。
- 極端に汚れた養生シートは見苦しいので使わない。
シートは足場にしっかり固定し、作業終了後は、速やかに撤去する。作業中であっても、強風の時は、事前にシートを撤去する。 - 塗料等の置場所は1ヶ所にまとめ、整理して保管する。
塗料で汚れた容器を乱雑に放置しているのは非常に見苦しいので、空き缶はすぐに車の中に片付ける。 - お客様の通路を確保する。
お客様が日常生活の中で通る所には、トラテープを巻きつけて注意を喚起し、玄関先や勝手口の前、物置の前等に足場部材や塗料缶を放置しない。 - お客様が大切にしておられる庭木、盆栽、芝生等を傷めないよう置場所を移動するか、あるいは、穴のあいたポリ袋をかぶせて植木類を保護する。
足場等を設置する時や塗装作業のときに、問題が発生すると思われる場合は、事前にお客様に報告して相談するように心がける。 - 現場では、ヘルメットを必ず着用し、高所では、安全帯を使用して作業をする。
- はしごを使って昇り降りする時は、ゴムベルトや足元固定用の金具を使い、はしごの上部、下部を固定する。
- 塗料を足場上に上げる時は、ロープで吊り上げる。
塗料缶を片手に下げて昇降する途中で踏み外して転落することがある。 - 毎日、作業の開始、終了時は、お客様に明るい挨拶をして、作業内容を説明する。
いつのまにか来て、いつのまに帰ったのかわからない、明日も来るのかどうかわからないようでは、お客様に到底信用してもらえない。 - 汚れて見苦しい作業服で現場に入らない。
「塗装業者→ ペンキ屋→汚れた作業着」を連想されるようではプロとは言えない。 - タバコは、灰皿を準備した場所で喫煙する。
特に、塗料置場の周囲では絶対に喫煙しないこと。 - 作業車は、通行の邪魔にならないように駐車する。
- お客様宅やご近所に駐車中の車に、養生フイルムをかけるか、一時移動を申し出る。
- 現場には、業者名を表示した看板を掲示し、責任を持って仕事をしていることを示す。
仕上り検査
塗装作業が終了しほぼ乾燥した時点で、お客様の立合いを求めて仕上がりの確認を行う。
工事完了後苦情を受けた場合、支払トラブルが発生したり、手直し工事のために次の現場の工程に穴をあけて無駄な作業をすることになって、次のお客様にもご迷惑をかけることになる。
小規模工事であってもケジメをつけることは、後日、お客様との間で、このようなトラブルを避けるために非常に重要なことである。
- 塗り残し、色ムラ、キズ、汚れ等がないか検査をする。
- 「塗装工事施工報告書」を作成し、お客様に施工結果を報告する。
万一異常が発生した場合、的確に対処するために、使用した塗料や施工内容の記録を残しておくことが必要である。
作業後の整理
日々、作業の終了後、現場を片付けて整理整頓することにより、お客様に良い印象を与えるばかりでなく、翌日の仕事をスムーズにスタートすることが出来る。
- 後片付け
作業者が帰った後、風で養生シートがばたばたと音を立ててお客様を睡眠不足にさせてしまうことがある。
取り外した足場のパイプにお客様が躓くこともある。
また、塗装現場には、マスキングテープや養生テープの切れ端、養生材のラベルが落ちていることが多いので、拾い集めること。
その他、庭石や植栽の葉等にこぼれた塗料が付着していることもあるので注意が必要である。
よく言われることではあるが、お客様の身になって整理整頓することが大事である。 - 工具類の手入れ
刷毛やローラー等の道具類に付着した塗料は、金網や割り箸等で塗料をしごき落とし、古新聞にこすりつけて塗料を落とす。
刷毛を洗う場合は、当然のことながら、水性塗料は、水で洗い、油性塗料については、灯油とうすめ液で洗い、その後、中性洗剤で洗って、水洗いし、陰干しすれば、しなやかな感じを保つことが出来る。 - 塗料の残量管理
塗料は、空気に触れると硬化し、劣化するので、現場ごとに使い切ることが望ましいが、やむをえず、残った塗料は、缶のフタをしっかり閉じ、およその残量をマジックインクで書き入れ、早期に使うようにする。
残った塗料を保管する場合は、直射日光や高温、氷点下になる場所を避けること。
また、硬化剤のように吸湿すると変質するものもあるので、保管場所には充分な注意が必要である。