現場管理 3、品質管理
2022/01/14
3、品質管理
1) 主な品質不良と原因
外壁塗装に関わる品質不良には、大きくわけて、塗装作業時に見つけることの出来る欠陥と年月が経過してから発生してくる欠陥がある。
それぞれについて、主な現象を整理すると下記のようになる。
それぞれについて、種々の要因が考えられるが、総合的な品質安定化策として、次の事項が重要である。
ⅰ) ケレン作業や下地の清浄化等の下地調整を適切に行う。
ⅱ) 素地に適した下塗り塗料、上塗り塗料の組み合わせを選択する。
ⅲ)刷毛、ローラー、スプレーガン等からの水、油、ゴミ等の混入を防ぐ。
iv) 低温、高湿度を避け、適切な環境下で作業をする。
一塗装仕上異常一
①、外壁塗装作業&乾燥中の異常
欠陥名 現象 原因 予防
1 たれ 塗料が流れてしま模様になる 粘度が低すぎる 過剰希釈しない
気温が低すぎる 気温上昇を待つ
一度に厚塗りしている 塗りつけ量を少なくする
2 刷毛目 刷毛(又はロール)跡が残る 塗料の流動性が悪い ※塗料選択
刷毛、ロールが硬い 刷毛、ロール選択
気温が低い 気温上昇を待つ
3 しわ・ちぢみ 塗膜表面にちりめん状のしわが入る 塗膜が厚い 一度に厚塗りしていない
下塗りが未乾燥状態 ※塗装仕様検討
上塗り溶剤が下塗塗膜を溶解 ※塗装仕様検討
4 ブラッシング 塗膜表面に水分が凝縮して付着しつやがない 塗装後に気温低下した 高湿度、低温時作業中止
急激に溶剤が揮発した(リフティング) ※塗装仕様検討
5 乾燥不良 時間が経過しても塗膜が乾かない 素地に油や水が付着している 素地を清浄化する
気温が低い 低温時施工を避ける
厚塗りしている 塗りつけ量を少なくする
シンナー相性不適 ※塗装仕様検討
6 つや不良 乾燥後も塗膜につやがない 下塗りの吸い込みが大きい ※塗装仕様検討
シンナー相性不適 ※塗装仕様検討
7 はじきへこみ 塗料がはじかれたようになり、均一に付着しない 油、水、ごみ等が付着している 素地調整徹底し清浄作業をする、同時に別の作業をしない
スプレー、刷毛に異物が含まれている 素地調整徹底し清浄作業をする、同時に別の作業をしない
素地塗膜が平滑で硬い 下地を研磨する
8 クラック 塗膜がひび割れする 下塗りが上塗りよりもやわらかい ※塗装仕様検討
下塗り塗料が厚すぎる ※塗装仕様検討
補修塗り替え回数が多い 素地まで剥がして再塗装する
9 ふくれ 塗膜が下地から剥がれて表面が膨れる 既存塗膜の下地密着が不充分 既存不良塗膜の完全除去
※塗装仕様検討
2)品質保証
①、品質保証とは
塗装工事は、たとえ質の悪い仕事をしても、塗ってしまえば、その時点では悪さ加減をすべて探知出来ないという特性がある。
塗り替え塗装の品質は、塗装後の仕上り品質と共に、長期的な耐久性能が評価されることになるので、お客様に安心して、仕事をまかせて頂くためには、5年後、10年後の品質を保証することが重要となる。
②、経年時の外壁塗装面の異常
欠陥名 現象 原因 予防
1 黄色・変色 色調が変化し色あせする 顔料の耐侯性が悪い ※塗装仕様検討
硫化物、アルカリ性物質等が侵食する ※塗装仕様検討
2 ふくれ 塗膜の表面が膨れる 素地のさびが膨れている 素地調整を徹底する
塗膜裏に水分が溜まる 既存塗膜を除去する
3 はがれ 既存塗膜が素地から剥がれる 密着不良の既存塗膜の除去が不十分 素地調整の徹底
既存塗膜にチョーキング粉、油等が付着している 素地調整の徹底
素地のさびが落ちていない 素地調整の徹底
塗り替えた塗膜が剥 がれる 下塗りが既存塗膜に適してない ※塗装仕様検討
4 クラック 塗膜がひび割れする 塗膜の耐侯性が良くない ※塗装仕様検討
塗膜の下地追随性が良くない ※塗装仕様検討
5 チョーキング 塗膜表面が粉化する 塗膜の耐侯性が良くない ※塗装仕様検討
一般に、製品の仕上がり結果について、消費者に対する品質保証をする場合、「バスタブ曲線」で示される。
外壁塗装の場合、以下のように説明できる。
適切な塗装が行われていなかった場合、塗装後の一定期間(例えば2年間)に異常が発生、もしくは、発見される。
この現象を初期故障と呼び、塗装対象物に対する塗料選択の間違いや下地処理の不適等の作業のミスが要因になって発生する。
このような期間が過ぎると塗膜に異常が発生することは少なく、発生したとしても、何らかの偶発的な要因によるものと考えられ、逆に、初期故障期間が過ぎたならば、その後は、故障の少ない安定時期を迎えることになる。
その後、10年程度経過するといわば老朽化し、顔料の褪色や塗膜のクラック、チョーキングが発生し塗り替えを必要とする時期が到来する。
このような考え方を取り入れて、塗り替え塗装をおよそ10年サイクルに設定した上で初期故障を超える一定期間の品保証することになる。
なお、「ほしょう」という言葉には、類似の言葉があるので混同されることがある。
「保証」とは、まちがいなく確かなものであることを請け負うことであり、品質(仕様書)、価格(見積書)、納期(契約書、工程表)を明確化して、何を保証対象にするのか明示し、これを実行できる事業基盤がなければならない。
「補償」とは、建設工事損害補償のように、万一の場合に、供給者側が注文者に対してとる弁済処置のことである。その他に、万一の時に備えての用心である「保障」という言葉もある。
②、品質保証体制作り
最近、塗料メーカーや訪問販売系業者、あるいは、リフォーム業者が戸建住宅の塗り替え事業に積極的に取り組むようになった結果、5年保証を唱えるようになった。
従来の一般的な保証水準は表に示すように、保証期間内に施工範囲に表に示すような瑕疵が発生し、その瑕疵を施工者が確認した場合、免責条件に該当する場合を除き無償で補修することを約束するものである。
最近は、高耐久性塗料を使うことによる保証期間が長期化する傾向にあり、塗膜について、10年保証をする業者もある。
しかし、言うだけならば簡単ではあるが、その保証が出来る根拠を掘り下げるとその技術的、論理的根拠は乏しく、営業的な姿勢だけが先行して管理体制が伴っていないようである。
なぜなら、塗料メーカーから供給される製品は、液状の半製品であり、メーカーの意図したとおりに施工することにより、その設計された性能を発揮できるわけであるが、様々な現場環境の中で行う塗り替え作業については、守ることが困難な面が多い。
品質の良し悪しに影響を与える要因の65%を現場作業に関わる要因が占めると言われており、「塗料の組成」よりも、「施工」にかかわる要因の方が、はるかに寄与率が高いので、「品質を保証しうる、しっかりとした施工を行える体制」でなくてはならない。
そのためには、以下に示すようなことが確実に行われていなくてはならない。
ⅰ) 塗装作業者の教育と専任化
ⅱ)事前の現場調査の徹底
既存外壁の劣化状況確認と適切な塗料の選定と施工方法の決定
ⅲ)施工時検査、工事完了検査の実施
ⅳ) 工事内容の記録と管理
保証内容および期間
項目 保証明間
①塗膜の異常なふくれ・割れ・剥離・変退色・チョーキング 5年
②金属下地材の著しい錆 2年
③塗膜上の著しいかび・藻 2年
免責条件
項目
①通常予測されるものとは著しく異なる使用方法や管理方法に起因する瑕疵
②注文者、入居者または第3者による故意または過失に起因する瑕疵
③当社が関与しない工事に起因する瑕疵
④地震その他自然災害に起因する瑕疵
⑤火災その他の事に起因する瑕疵
⑥建物所在地が海岸に近く塩害に起因すると判断される瑕疵
⑦建物所在地が温泉(火山)に近くその影響を受けたと判断される瑕疵
⑧建物所在地が工場等に近くその影響を受けたと判断される瑕疵
⑨その他不可抗力に起因し施工者に責任がないと判断できる瑕疵
③、契約書類の整備
事業の安定を図るために、前述の品質保証体制作りは欠かせないものであるが、その前提として、誰に何を保証するかを明確にするためにも、契約書類の整備をしっかりと行わなくてはならない。
リフォーム工事全体に言えることであるが、塗装工事についても一定の工期がかかる比較的大きい工事から短時間で終了する小額の簡単な工事まで、多様な工事を行っている。
簡単な工事については、契約書を交わさずに仕事を請けることがあるが、お客様との間でトラブルが発生しやすく、また、発生した場合に問題が大きくなる。
そこで、契約の締結を明確にするために何らかの書面を交わす必要があるが、個々の契約に詳細を明示して約款を添付することは非常に煩雑なため、通常、見積書、注文書と注文請書を交わす方式が一般的である。
工事規模が小さければ契約を簡便に交わすことについて、やむを得ない面もあるが、もしトラブルが発生した場合には民法が適用されることになって、より請負者側が厳しい制約を受けることがある。
したがって、簡便な契約を交わすにしても下記の事項を明確にするよう書面を整備するべきである。
ⅰ) 契約者(注文者)
ⅱ)工事金額
・部位別内訳の明示
ⅲ) 工事内容……必要に応じ下記の書類を添付
・工事範囲;図示(特に、塗装対象外の部位を明確にする)
・工事仕樣;部位別標準塗装仕様書
・納期;工程表
ⅳ) その他特約
④、クーリングオフ制度への対応
クーリングオフとは、訪問販売等による契約は、たとえ契約していても、消費者に冷静に考える期間を設けて、理由がなくても契約を解除できる制度である。
これは、訪問販売を行う営業マンが執拗な勧誘を行って交わした契約は、契約内容を記載した書面を交わした日から一定期間は、消費者に冷静に判断する余裕を与えることにより、消費者を保護する制度であり、訪問販売、電話勧誘、宅地建物取引、マルチ商法等の契約が適用される。
この内、店舗外での指定商品、権利、役務の契約を行う訪問販売については、「特定商取引法に関する法律」により8日間のクーリングオフ期間が設定されており、お客様の住まい(店舗外)で商談をまとめることの多い塗装営業等のリフォーム工事については、役務(サービス)の提供……家屋の修繕・改良(現金で支払う 3000 円未満の小額工事を除く)が該当する。
この制度は、消費者が解約の通知書を送ることにより理由を説明しなくても一方的に契約解除できる制度であり、安易な契約をしている場合、請け負う業者側が損失を被ることになるので下記の点に留意する。
i)消費者(お客様)に納得してご契約して頂けるよう契約書の内容に不備がないようにする。
法定の記載事項が欠けている場合、虚偽の記載があった場合、法定の契約書を交わしていないことになり、8日を過ぎてもクーリングオフが適用される可能性がある。
ⅱ)クーリングオフ期間は、契約締結日を初日として8日間である。
消費者が書面(簡易書留郵便、内容証明郵便)により通知するが、この期間に発信すれば有効になっており、請負者側の受取日ではない。
ⅲ)お客様から直ぐに工事をするように催促されたとしてもクーリングオフ期間は着工しない。
クーリングオフ期間内に既に役務を提供(着工)しているとしても、消費者よりクーリングオフの申し出があれば業者側は契約の解除に応じなければならない。
そして、クーリングオフに伴う損害の補償や違約金の請求が出来ないばかりか手付金も返還しなければならない。
ということは、契約直後に塗装工事を着工してしまっている場合、一方的にクーリングオフが適用されると当然工事中止をすることになるが、復元することも出来ず、それまでに要した費用も請求できないことになってしまう可能性があるということである。
⑤、クレーム処理
クレームとは、本来、権利の要求や損害賠償を請求することであるが、顧客の苦情も含めて使われている。
塗装に限らず、住宅の請負工事は、取り引きする現物のない状態で契約するために、工事完了後にクレーム、苦情が発生する。実際に発生するクレーム、苦情には図に示すようなものがある。
塗装工事のクレーム・苦情事例
区分 クレーム・苦情事例
工程管理 足場を組立後直ぐに塗装をしない 約束した期限までに工事が終わらない
天候が回復したが工事に来ない 工事が終わったが足場を撤去しない
現場管理 マイカーのボデーに塗料が付着した 植木に塗料が付着したままになっている
玄関タイルにひびが入った 盆栽の鉢を割ってしまった
塗装範囲 物干しを塗装していない 雨樋の金具(でんでん)を塗っていない
外壁目地の部分を塗装していない
仕上り 塗装された色が約束した色と違う 色見本に比べて実際の色調が違う
外壁の一部に色むらがある 軒裏に塗り残しがある
工事内容 3回塗りしていないのではないか 塗料の臭いで頭が痛くなった
サビ落としをきちんとしていない
近隣管理 足場組立の音がうるさい 高圧洗浄の音がうるさい
洗浄するとき水が飛んできた 職人が我が家を覗いた
日々多くの工事を手がける者にとってこれらは些細なことが多く、軽く扱いがちである。よく「お客様は神様」と言われるが、現実には、うるさい神様、間違える神様、意地悪な神様もいるので、初期処理を誤ると大きなクレームになってしまうこともあるので注意すること。
特に、これらの問題は、営業折衝から工事段階における関係者の態度や行動等がお客様に不信感を持たれていた結果であることを認識しなくてはならない。
クレームが発生した場合は、顧客の満足度が著しく低下し請負者の信用を失墜させるわけであるが、誠実で適切な対応をすれば、災い転じて福となし、信用を高めることが出来る。
そのために、最初に取り組むことは、「事実」を明らかにすることである。
事実とは、お客様との接点が生じた引合い段階から営業折衝、見積り、契約、施工を経て、問題発生までの経過である。たとえ複数の関係者が携わっていても、行動記録やメモ帳、関係者の記憶、その他関連する帳票類により、これらの事実関係を時系列に整理すれば、直接の原因だけでなく間接的な問題点を明らかにすることが出来る。
非常に手間がかかるが、下記のことを念頭において、誠意ある対応をしなくてはならない。
基本姿勢
①、逃げない
②、迅速に対応する
③、原因を明らかにする
①、処理方法を明確にし、相手先の同意を得て処理する
⑤、再発防止を図る
ただし、一件落着したとしても、このような問題が発生したことは、請負者側に何らかの不手際があったためであることを反省し、個々の問題点を洗い出して再発防止を図らなくてはならない。