合理化で消えた左官の技術
2021/01/28
合理化で消えた左官の技術
吸湿作用のある土壁は、日本の風土にぴったりの壁でこれに勝るものはない。
だが、残念なことに一部の地方を除いて、最近は特別に高級な住宅以外には、土壁はほとんど見られなくなってしまった。
一部の地方とは、岐阜県や愛知県などだ。
瀬戸焼や美濃焼で知られるように、良質の土に恵まれている。
「ここらでは、建売住宅でも土壁でないと売れないんです」という話を、現地の人から聞いたことがある。
多くの人が土壁のよさを認識しているからだ。
多くの地方で一般住宅から土壁が消えていったのはなぜか。
土が少なくなったこともその理由だろう。
しかし、それだけではない。
あげられるのは職人の不足だ。
土壁の下地には、木舞という細竹を縄で編んだものをつくるがこのことを木舞かきという、これを行う職人が少なくなった。
都市部で探そうと思ったら大変だ。
一部の地方にしろ、伝統的な土壁が木舞かき職人が消えていった背景には、建築工法の省力化、合理化がある。
手間をかけずに早く仕上げることがよしとされ、乾いては塗り、乾いては塗り、土を何層も塗り重ね、上塗りまでに大変な手間がかかる土壁は、次第に敬遠されていった。
つれて、左官屋の仕事も大分変わった。
舟を持って、土を練りながら壁を塗りこめていくといった仕事は消えつつある。
左官の技術が落ちるのは当たり前の話だ。
昔は、左官屋の話に、「壁はたらいの水をなでるように」というのがあった。
だが、いまの乾式工法では塗っていくそばから乾いてしまうので、彫刻などやろうにも、とてもできない。
彫刻をやる左官屋などはいなくなってしまった(今は天井飾りの既製品 モールディングが出回っている)。
そこまで腕を磨く必要がないからだ。
人手不足の折だ。
省力化、合理化を悪いというつもりはない。
だが、それによって何百年と続いてきた工法が消えてしまうのは寂しい。
工法が消えていけば、技術(職人)は消えていく。
指先に伝わる微妙な感覚で、平らで張りのある壁を仕上げていった。
今はこんな仕事は要求されない。
土壁ばかりではない。
室内の壁にしても、乾式工法の普及で、とにかく時間とコストダウンばかりが要求される。
人手不足の時代に、省力化、合理化を悪いというつもりはない。
それによって何百年と続いてきた工法が消えてしまうのは寂しい。
工法が消えると技術も消えていく。